2011年10月5日水曜日

ほのぼのだけが能じゃない!「三丁目の夕日」西岸良平の短編集はむちゃ黒い!

2012年1月21日、映画『三丁目の夕日』シリーズ第3弾『ALWAYS 三丁目の夕日'64』が公開されます。「昭和30年代」を舞台にしたこの作品は老若男女問わず、多くの観客を感動の渦に巻き込みました。しかも、今回は3D映画。もともとCGに定評がある作品だけにこれはヒジョーに楽しみなポイントですね!
 さて、この映画『三丁目の夕日』は「ビックコミックオリジナル」(小学館)で連載されている『三丁目の夕日-夕焼けの詩』が原作となっています。作者は西岸良平という漫画家なのですが、実はこの西岸良平、『三丁目』からは想像もできないようなブラックな傑作短編を数多く発表している漫画家だったりします。
 暴行・殺人・不条理はあたりまえ、挙句の果てには地球そのものを滅亡させっちゃたりと本当にやりたい放題なのです。このコラムでは『三丁目の夕日』ではなかなか見ることができない「ブラック西岸」の作品を一部ご紹介いたします。
・女版『笑ゥせぇるすまん』!? キュートなセールスレディ大活躍
『ポーラー・レディ』
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 魔法販売会社ポーラー社に勤める江戸川蘭子は万年成績ビリのセールスレディ。だけど、みんなを幸せにするために今日も頑張って魔法を売るぞ! だれか魔法を買ってくれませんか?
 ......こう書くとなんかセールスレディの根性ものっぽいけですけど、売っている商品は生命を燃料にして精霊を呼び出す「魔法のライター」だったり、自分の奥さん以外は全員ブスに見えてしまう秘薬だったり、死人を蘇らす「ゾンビ軟膏」だったりとどこかおかしいものばかりです。
 しかも「ゾンビ軟膏」は生きている人間ではなく、蘭子が魔法陣で蘇らせた死人に対し売っています。『笑ゥせぇるすまん』もさすがに死人相手には商売しませんて......。
 ちなみ江戸川蘭子は言わずもがな江戸川乱歩のモジリです。この適度にゆるいキャラクター名も西岸作品の魅力のひとつです。
 わりあい救いのあるお話がメインですが、ゾンビが悪人を殺すシーンは骨や目玉は飛び出るわ、首チョンパになるわでなかなかのホラーです。
 西岸良平の短編が気になった人にまずオススメしたい一冊です。
・これぞ西岸作品の真骨頂!? お色気宇宙人のあばずれ日誌
『ミステリアン』
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 『三丁目の夕日』しか読んでいない人はこの作品を読むと卒倒するかもしれません......。なにせこの作品は西岸作品の中でも1、2を争うくらいにエロエロな作品だからです。
 主人公の宇宙人、広美は人類の調査のため地球にやってくるのですが、人間社会に馴染みすぎてしまい「地球病」にかかってしまいます。この「地球病」というのは人間社会に存在する快楽、酒やギャンブル、覚せい剤などの原始的な欲望におぼれること。あろうことか宇宙人・広美はアル中、ニコ中になってしまい、挙句の果てにはAVにまで出演しちゃうという、なんとも貧乏くさい活躍を見せてくれます。
 途中、他の星の侵略者とロボットを使ってバトルをするなどSF要素もありますが、アパートの一室が研究室だったり、部品屋のオヤジに体を売って製作資金をセーブするなどのタイムボカンシリーズ並みの金策が涙をさそいます。
 ちなみにラストは突然、地球で核戦争が起こって(唐突に)ジ・エンドです。
 貧乏・SF・破滅と西岸良平のエッセンスが凝集されたこの作品。このキーワードにシンパシーを感じた人は読んでおいて損はないです!
・この1冊で地球が5回も木端微塵!
『新生活読本 魔術師』
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 表題作「魔術師」を含めた全15作の短編集。とにかく陰々滅滅とした後味の悪い話が続きます。なんといってもこの1冊で5回も地球滅亡しちゃってんですから。
 「魔術師」は西岸作品の中でも特に不条理な作品として人気が高い1作。ざっとストーリーを説明すると就職活動がうまくいかなった本田健は、ある日アパートの前に建てられた「魔術博覧会」というサーカス小屋に足を運ぶ、そこではひとりの手品師が魔術ショーを行っていた。手品師は何もないところから猛獣を出しなどの手品を披露し、本田を驚かす。
 後日、本田は偶然居酒屋でサーカス小屋の手品師と再会する。手品師は本田に「君は自分が宇宙の中心だと思った事はないか? 信じられるのは自分だけ。自分が死ねば宇宙も無くなるんじゃないか......そんな事を思ったことはないかね?」と問う。ある日、本田はその事を友人に笑い話として話していたのだが、その友人は帰る途中階段から落ちてしまい瀕死の状態になってしまう。死ぬ間際、友人はポツリと「さっきの宇宙の話......子供のころそんな事を妄想したしたことがあったなぁ」と本田に伝え、息を引き取る。本田が唖然としたその瞬間、本田の見える世界がパッと消えていってしまう......というお話なんですが、なんですかこれは!? あまりに不条理すぎて見ているこっちが唖然となりましたよ。ところで今気付いたですが副題の「新生活読本」の意味って「人間は破滅の危機を常に考え新生活に備えるべし!」という作者からのメッセージだったりして......。
 とまあ、このようなお話のオンパレードな短編集なので、ブラックSFが大好きな人はこの本というか西岸良平の短編を読んでみることをオススメします。
 さてさて、どうでしょうか?『三丁目の夕日』とは一味違った西岸良平の世界を少しでも感じとれましたでしょうか? 西岸良平はもう一つの代表作『鎌倉ものがたり』が連載された1985年以降、短編作品は描いていませんが、そのエッセンスだけは『三丁目』にも『鎌倉』にも受け継がれてるように感じます。「ほのぼの」の裏には巨大な「ドロドロ」が埋まっている。西岸良平の作品のテーマは実はコレなんかないかと感じています。
 我々のいる世界だっていきなり核戦争が起こったりUFOが襲ってきたり、それこそ急に宇宙が消えることがあってもなんら不思議じゃありません。でも、死ぬ直前までは出来るだけほのぼのと笑って過ごしていきたいものです。ハイ。
 『ポーラー・レディ』『ミステリアン』『魔術師』は双葉文庫名作シリーズで絶賛発売中です。この秋はブラック西岸良平でちょっとビターな秋を!

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